076 『奈良歴史漫歩』Kindle版発行


 自著の『奈良歴史漫歩』を電子書籍にしました。「奈良歴史漫歩」は2001年から約8年間の間、メールマガジンとホームページを使って発表した史跡探訪エッセイです。舞台は奈良と周辺地域で古代史の話題が多いが、現代も扱います。読者は多いときで約700人の方に購読していただきました。そのすべてはホームページに掲載しています。そこから10編選んで和装本にしたのは6年前です。AmazonのKindleは私も読書で使用していますが、今回は著者の立場で利用させてもらうことにしました。電子書籍化するに際して新たに「まえがき」を加えました。なお『奈良歴史漫歩』Kindle版の定価は300円。Kindle端末がなくても、PCやスマホにアプリを無料ダウンロードすれば読めます。Amazonプレミアム会員は端末があれば無料で読めます。

   『奈良歴史漫歩』Kindle版まえがき
 「趣味は何」と問われると、「発掘調査現地説明会へ行くこと」と答える。大概の方は怪訝な表情を浮かべる。無理もないだろう。開発ブームが国土を席巻した一時に比べれば、実施される現地説明会の数は減ったが、どの会場でも高齢者男性を中心に多数の人々が遠近から集まる。私の二十年間の経験からでも参加者は確実に増えている印象がある。しかし、いくら増えたと言っても世間からすれば少数派であることは間違いないだろう。
 現地説明会が病みつきになるほど面白いのは何故なのか考えてみた。まずは発見があること。その意義の大小は異なっていても、新しい情報を得る瞬間に立ち会うことのスリリングな喜びがある。
 現地説明会では、考古学、または古い建物の解体修理では建築学の専門家の説明を受ける。目前にあるのは、地中の凸凹やなかば腐った木材、石、土器や金属器の破片、瓦などだ。これらは史料であり、専門家の判定・解釈・推理によって歴史的な意味を持つ情報へ変換される。単なるモノから歴史的情報が引き出されるプロセスの目撃者となるばかりでなく、見学者の知識次第でそのプロセスに参加も可能なのだ。
 現地説明会は一回限りの生の体験である。調査が終われば、埋め戻されるか開発のため破壊されるかだ。まれには現地保存されて見学に供せられることもあるが、エンバーミングのような不自然さは否めない。長大な時間を経てきて今この瞬間も変容するモノの様相が日の目を見る。奇跡としか言いようのない出来事が起こっているのだ。すべては滅び無に帰していく。何百年、何千年前の人間の営みの欠片を瞬きほどに可視化して、ふたたび滅びの過程に戻してやることで、この真理に触れる。
 現地説明会は、歴史を体験する最良の機会である。ここで羽ばたいた想像力は私の史跡めぐりの導きとなる。きらびやかに復興された寺院にあっても廃墟の礎石を求めることが、私の歴史漫歩なのである。
                     二〇一五年六月二〇日   橋川紀夫

   目次
夢いまだ幻の高安城
石で固めた天下の山城、大和高取城
平城宮東朝集殿を移築した唐招提寺講堂
春日山の水神信仰
春日若宮おん祭の歴史  
若草山山焼きの起源  
都祁の氷室  
春日烽と飛火野伝説  
三輪山祭祀の謎
本薬師寺の心礎


奈良歴史漫歩